マパールの穴あけ加工最前線、トリタンドリルの実力診断

株式会社マパール

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  •  マパールの新製品のうち、小堀部長からの寄稿をベースに「困難な条件下での最適な穴加工を実現する」トリタンドリルを取り上げてみた。

 

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  •  マパールが提供する3枚刃ドリルであるトリタンドリル(図1)は、2枚刃ドリルと比較して、穴加工数の増加はもとより、長寿命、低コストという加工メリットをもたらしている。

図1

  •  標準、特殊双方の設計品による対応で、大幅な高送り条件のもとでの穴加工が可能となり、加工工程の安定、生産性の向上を同時に達成している。
  •  広範囲にわたるワーク材質の加工に適応しつつ、穴の変形や加工出入り口のバリを押さえることができるのも、最適化された切りくず排出性能と切削低減をもたらす斬新な切れ刃形状の効果だと言う。
  •  従来、ほとんどの2枚刃ドリルは、程度の差こそあれ、先端がフラットになるチゼルエッジを持ち、その幅と角度は、ドリルの求心性とスラストに大きな影響を与えるが、適切に処理されたチゼルエッジは、振動を抑え、外周マージンの負荷を低減する役割を担う。
  •  チゼルエッジが触れた途端、加工時の加工穴底でドリル中心の偏心により多角形状を生成。通常のシンニングでは、チゼルのフラット部が小さくなり、求心性は改善するが、主切れ刃の先端角に対し、シンニング部の切れ刃先端角は鈍化する(図2)。

図2

  •  ドリルは溝長が長くなるほど、先端角およびチゼルエッジの影響を受けながら、求心性は劣化。一般に2枚刃のドリルでは、穴底で三角形の穴形状を生成する(図3)。

図3

  • 加工開始時に、ドリルがスピンドルの回転軸から外れると、ガイドチャンファー(ドリルマージン)は穴加工の振動を抑える働きをすると同時に、ドリルを中心に戻るのを妨げるように働く。
  •  この結果、非円形の穴の生成や穴位置に狂いをもたらし、同時にガイドチャンファーに大きな負荷がかかる。そしてドリルの偏りが極端になった場合、高い送り速度の条件下や過大な切削抵抗が生じると、ドリルが破損に至る恐れが出てくる可能性がある(図4)。

図4

  •  これまでの3枚刃ドリルの加工で問題となっていたのは、切りくずの排出性。特に深穴加工では、排出不良により切りくずが強度に圧縮され、頻繁に、しかも早い段階でドリルの破損が発生した。
  •  トリタンドリルのポイントシンニング(図5)は、シンニング部での先端角の鈍化が抑えられ、非常に安定した求心性と中心部では安定した十分な強度が備わっている。トリタンドリルの刃先すくい角は、ドリル中心から離れるにつれ徐々に増加し、外周でねじれ角と同一になる。

図5

  •  切りくず生成時の切れ刃すくい角は、従来のドリルより大きくなり、切削性能をアップさせており、流線型のチップフルートの採用により、切りくずとドリル溝の間の摩擦を大幅に低減。たとえ伸び勝手の切りくずが排出される素材の加工でも、生成する切りくずは、個々に穴底から方向を変え、短くカール状に分断され、回転しながら排出される。また、切れ刃全体が緩やかな曲率の形状のため、加工時に応力が均等に分断され、過度の機械的および熱的負荷が避けられる。
  •  加工ワークへの最初の接触から最高の位置精度をトリタンドリルが約束できるのは、3枚刃と自己求心的なチゼルエッジによるところが大きい。
  •  たとえば、深さ8×Dまでの深穴で、途中に断続部や穴入口が傾斜した加工面の穴加工においても高い穴位置精度が得られる。出口が傾斜面の穴加工では、従来、ドリル中心のドリフトやこれによって生成される、多大なバリの発生などに悩まされていたが、トリタンドリルでは、バリの発生は最小限に抑えることができるばかりか、位置ずれのないセンタリングと高い曲げ剛性によって、2枚刃のドリルと比較して送り速度が2倍から3倍の高送りが可能となる。

 

  • ▼鋳鉄シリンダーヘッドの加工
  •  FC250(ねずみ鋳鉄)のシリンダーヘッド(図6)の加工で、2枚刃ドリルと比較して、穴加工数を45%延長させ、大幅な寿命向上を実現させた。径15×径16の2枚刃段付きドリルが使用されてきた。切削速度100m/min、送りf=0・2mm/revで1800穴を加工。これに対し、3枚刃トリタンステップドリルでは、切削速度130m/min、送り0・34mm/revにまで上げることが可能となり、ツール寿命は2600穴と、大幅な向上を見た。

図6

  • ▼ステンレス製コモンレールの加工
  •  高温で大きな負荷のかかるオーステナイト系のステンレス鋼(SUS304)が被削材として使用されており、摂氏1050度に達する高温下でも強度を維持し、脆化が避けられる反面、被削性は悪くなる特徴があるが、トリタンドリルは、この加工でも、2枚刃段付きドリルのツール寿命が48m=3200穴に対し、63m=4200穴を達成している。もちろん、高送り条件の下での加工が実現される。
  • ▼耐熱鋳鉄製ターボチャージャーの加工
  •  従来、外径8・3ミリ2枚刃ドリルで最大60ワークの加工に対し、140ワークの加工が可能になり、ツール寿命は130%向上した。 トリタンドリルの特殊シリーズの対応について
  •  スチール、鋳鉄及び非鉄金属用トリタンドリルは標準化され、在庫されており、外径5mmから20mmの範囲で突出し長さ(L/D)が8/Dまで対応しているが、さらに特殊対応として、ユーザーの使用条件に特化した特殊対応も図っている。
  •  各種被削材に適した刃先処理や特殊コーティング処理、段付き穴加工用ステップドリルなどの仕様も、短期間で製作に対応している。

図7 図8